2026年3月8日(日)「アイロニカルであること」 永松 博
マルコによる福音書10章32~45節(聖書協会共同訳)
気温差の激しい日々ですが、場所によっては、すでに、桜が花を咲かせているところもあるとの知らせを聴きました。新年度、平和のうちに、一人ひとりの自由と尊厳とが守られ続けることを心から祈り願います。昨年、12月中旬、福岡県大牟田市の二つの中学校が統合再編され、新年度から「桜花中学校」の名称で再出発することが決まったとの報道に触れました。この名称には「桜の花のように生徒一人一人がそれぞれの個性を輝かせながら、自信を持って充実した学校生活を送ってほしい」との願いが込められたと言います。しかし、11の市民団体や平和団体からは、再考を求める要請が出されました。「桜花」は、太平洋戦争中、帰還不可な特攻兵器の名称だったからです。報道では「(桜花が)特攻兵器だと知らなくて投票したのだろうと思う」との声もあったといいます。
1960年代、フォークブームの中で、一人の青年が「自衛隊に入ろう 入ろう 入ろう 自衛隊に入ればこの世は天国 男の中の男はみんな自衛隊に入って花と散る」とアイロニー(皮肉)を込めて歌いました。当時、一部機関を除いて、多くの人がアイロニーをアイロニーとして理解していたようですが、果たしていま、このアイロニーは通じるのだろうかと危機感を覚えます。
きょうの箇所で、イエスは、彼を捕らえ、陥れようとした人たちが仕掛けた税金問答に対して、「15デナリオン銀貨を持って来て見せなさい」と言い、「17皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさい」と語ったと書かれています。17節のイエスの言葉は、アイロニーであったかもしれないとの紹介は、先日の聖書の学びと祈りの会原稿にも書きました。当時のデナリオン銀貨に刻印されていたのは、ラテン語で「ティベリウス・カエサル・アウグストゥス、神的アウグストゥスの子」でした。このデナリオン銀貨と同じ刻銘をギリシア語で書いているシリア出土の貨幣もあると言います。ギリシア語表記では、ラテン語「アウグストゥス」がギリシア語「セバストス」(崇拝すべき者、崇高なる者の意)となっています。また、この銀貨の裏面は、アウグストゥスの妻でティベリウスの義母が、神々の王座についており、ラテン語では「最高神官(Pontifex Maximus)」、ギリシア語では「大祭司(Archieleus)」と刻銘されています。イエスは、その銀貨を持ってこさせ、質問者らの神は皇帝、ないし自分たちのことであるならば、神(皇帝・大祭司)のものは神(皇帝・大祭司)に返せとアイロニーを込めて言ったのかもしれません。私たちは、神以外を神とするあらゆるものに対しては批判的主体を保ちつつ、神のものは神にお返しし、主イエスに従い、仕え合い、与えられた自由を生きましょう。
