2024年3月24日の礼拝より
「イエスの息を引き取って」 永松 博
ヨハネによる福音書19章17~30節
「引き渡す」(ギリシア語:パラディドミ)は、「与える(ディドミ)」の強意形で、
何か、または誰かが、別の人の裁量に移されることを意味します。新約聖書に 119 回
出てきて福音書のイエスの受難の箇所に集中しています(『ギリシア語釈義事典』)。
●「引き渡す」は裏切る ヨハネによる福音書では、イエスの弟子ユダの裏切り行動
に当てて記しています(13 章 2 節「夕食のとき、悪魔はすでにシモンの子イスカリ
オテノのユダの心に、イエスを裏切ろうとする(「引き渡す」パラディドミ)思いを
いれていた…」、13:11,21、18:2,5 他)。イエスは、弟子の裏切りによって大祭司のも
とへ引き渡されました。
さらにイエスの引き渡しは続きます。大祭司のもとから政治権力者ローマ総督ピ
ラトへ「引き渡され」ます(18 章 30 節「もしこの人が悪事を働かなかったなら、
あなたに引き渡すようなことはしなかったでしょう」、18:35 他)。
そして直前では、イエスはピラトから民衆へと引き渡されています(19 章 16 節
「そこでピラトは、十字架につけさせるために、イエスを彼らに引き渡した」)。
●イエスを引き渡したのは誰か イエスは、弟子のユダ→祭司長→ピラト→ユダヤ
民衆と引き渡されていきましたが、その出発点は悪魔サタンでした(13 章 27 節「サ
タンがユダに入った」、他 13:2、6:70-71 も参照)。イエスを引き渡したのは、サタン
です。そしてサタンというこの悪魔的な存在は具体的にはローマ支配権力だとヨハ
ネ福音書は語ります。サタンが入ったユダは「この世の君」(14:30)とも呼ばれてい
ます。また、ユダの中にローマ支配権力が入っていたから、イエス逮捕の場面ではユ
ダが一隊のローマ軍を引き連れることができました(18:3「ユダは、一隊の兵卒と祭
司長やパリサイ人たちの送った下役どもを引き連れ、たいまつやあかりや武器を持
って、そこへやってきた」)。ユダヤ教祭司長も、イエスを十字架に上げろと叫んだユ
ダヤ人たちも、世界支配者ローマ帝国と一体でした(19 章 15 節『祭司長たちは答
えた、「わたしたちには、カイザル以外に王はありません」』)。イエスを引き渡した者
とは、構造的には、この世の支配者への従属関係に陥ってしまった人たちのことです。
●息を引き渡すイエス けれども、イエスだけは、全く違ったものを引き渡します。
19 章 30 節、息(プネウマ)を引き取る(パラディドミ)は「霊を引き渡す」とも読
めます。イエスは、まったく自由のうちに神の支配を生き、聖霊(1:32「御霊」)を
十字架の下にいた母や愛弟子に引き渡しました。わたしたちは、イエスの十字架のも
と、イエスの息を先取りし引き取って(19:16)、神の支配を生きましょう。